リンパ浮腫~おわりに~
リンパ管における生理は、徐々に解明されてきていますが、多くは謎のままです。この中でリンパ管の組織液回集系における特徴で興味深い点は、ヒトの場合1 日2 ~ 4lのリンパ液が生成され、鎖骨下静脈内に流れていくといわれていますが、その予備力は、その20 倍の処理を行うことができる事です。この流れの原動力は、骨格筋のポンプ機能に委ねられています。
この筋ポンプ作用は、弾性ストッキングなどの使用による皮膚コンプライアンスの減少でさらに増強します。また、マッサージ(ドレナージ、間欠的空気圧ポンプなど)の機械的刺激で、リンパ回収能を生理状態の5~ 10 倍に増強する事が出来ると言われています。これが現在の複合理学療法の原点と考えます。今後、リンパ管における生理が、解明されるとさらに新たな治療方法が出てくることが期待されるところです。
最近のリンパ管における新しい生理学的特性として、もともとリンパ管は、低酸素環境で生理機能を営んでいるシステムです。酸素ラジカル(一酸化窒素(NO)など)に可過敏に反応します。これは炎症により排出されたNO に反応しリンパ管の過剰収縮による閉塞がおこるために、蜂窩織炎で浮腫が増強する一因になると考察します。
また、体幹部の比較的太いリンパ管(集合リンパ管、リンパ本管など)は、リンパ管壁に栄養血管が存在しており、酸素供給系リンパ管平滑筋が自発性収縮を起こしリンパ管独自にポンプ機能生まれることが確認されています(それまで多くは、骨格筋によるポンプ機能しかないと考えられていました)。この自発性リンパ管平滑筋収縮によるリンパ管独自のポンプ機能の引き金が、リンパ管のけん引力によって起こる事も確認されています。当クリニックでのYALSE(リンパセルフエクササイズ)は、この原理を応用した運動療法です。
今後、再生医療が発達し、リンパ管再生が可能になれば、リンパ浮腫に対する根治的な治療として脚光を浴びることになると思いますが、それまでの間は、現状の複合理学療法をできるだけ応用、発展させていくことが望ましいと考えます。
また、現在、乳腺外科や婦人科においてもリンパ節の摘出の縮小など術式の工夫がなされ、リンパ浮腫の発症に対しても考慮した、手術法が行われるようになってきています。縮小手術による癌患者の平均的な予後に影響がない事を慎重に確認した上で、これらの手術術式が更に洗練されたものになっていくことを切に願います。