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哺乳動物の着床前受精卵の発生休止って知っていますか?

2022.05.18

産婦人科医でも知らない人が結構いると思いますが、哺乳動物の妊娠には不思議な現象が起こる事があります。
多くの哺乳動物は母体の環境に応じて受精卵(胚)が着床前の段階で、数日から1年もの間、細胞増殖と細胞分化の休止する現象があり、これを発生休止(embryonic diapause)といいます。発生休止は100年以上前に、北半球の野生のノロジカで発見されました。発生休止は着床遅延とも呼ばれますが、現在では130種類の哺乳動物に確認されています。発生休止は、育児に適した時期に多くの子孫を残すために、出産時期をコントロール術として多くの哺乳動物にそなわった現象と考えられています。例えば、母体の授乳時期に弟世代の受精が成立した場合、発生休止を起こして出産時期をずらしたり、餌の少ない冬季の育児をさけるために発生休止を起こし、餌の多い春の出産を実現するなどです。発生休止は、多くは授乳性と季節性の2つに分けることができます。
発生休止の大きなカギを握っているのが、授乳行動により分泌するプロラクチンと温度や日照時間などの季節の要因により惹起される母体のプロラクチンやプロゲステロン、エストロゲンの相対レベルのコントロールにより誘導、解除しているのではないかと考えられています。
当然、ヒトでもこの能力が備わっていると考えられています。
さらなる研究によりこの現象が解明されると、ヒトの場合、初期流産の治療や高度不妊治療に応用されるかもしれません。