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ホルモン補充療法により元気で長生き

2018.05.14

2017年、我々日本産婦人科学会にて「ホルモン補充療法ガイドライン」が改訂されました。ホルモン補充療法(以下HRT)は、以前より「エストロゲン欠乏に起因する症状(ほてり、発汗、冷え、うつ症状など)の緩和や治療」はすでに周知のことですが、今回は「エストロゲン欠落によって発生する諸疾患(骨粗鬆症、高脂血症に起因する成人病、認知症、など)のリスク低下や更年期以降のヘルスケア」のために使用されるべきである事がより強調されました。
現在、日本人女性の平均寿命は、87.5歳と年々上昇しています。近年、健康寿命が話題になっていますが、「死に至るまでいかに元気に生活できるか」が最も重要なテーマになっているのは事実です。それでは、今回の改定されたガイドラインに乗っ取って、HRTによって健康寿命を維持する為に期待できる事について述べたいと思います。
まずは、50歳代でHRTを開始し、5~30年行った場合、質調整生存率が1.5年延長するという報告があります。また、すべての女性は閉経後から骨量低下が起こり始め、75歳以上で約半数は骨粗鬆症になると言われておりますが、これもHRTにより予防できることは有名な話です。また、閉経後から多くの女性で脂質代謝変化が起こり、高脂血症に移行しやすくなります。周知の如く高脂血症は、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、肝機能障害、高血圧などの発生の原因なりますが、50歳代からHRTを行う事で多くの成人病の発症を減少させるとことが出来る事も報告されています。また糖代謝障害である、2型糖尿病発症に対してもHRTにより、14~19%減少する事が出来る報告もあります。エストロゲンは脳神経細胞に対して保護的作用があり、50歳代からHRTを行う事によりアルツハイマー病や認知症リスクを減少させる事など多くの報告が全世界中に認知されています。
最近話題になっている事として、手指の関節包内の滑膜にエストロゲン受容体が存在し、更年期以降から腱鞘炎や手根管症候群、ばね指、指関節変形などが起こる事。また口腔粘膜にもエストロゲンやプロゲステロン受容体があり、更年期以降からの口腔内乾燥症や味覚障害などが発生する事。これらの改善にもHRTは有効と言われています。
以前よりHRTでよく話題にのぼるのが、乳癌の発症リスクについてです。HRTガイドラインでは、HRTの施行期間が5年以内であれば、乳癌の発症に何ら影響が無い事が明言されました。逆に大腸癌や胃癌などの消化器癌や子宮体癌などは、HRTにより発症を下げることが出来ると言われています。